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2009/10/30

空気人形(57/100 '09)

どうしてペドゥナなんだろう・・・

ペドゥナは大好きな女優さんのひとりだけれど、なぜ彼女を起用したのかが不思議だった。
まるでお人形さんのようなスタイルの人ならば、いくらでもいる。
セリフだって、そうは多くないだろうし、何もわざわざ、と。
けれど見終えると、これはペドゥナでなければ駄目だと思わされている、自分。

寓話と、簡単に定義できないお話だった。

性欲処理の代用品であるダッチワイフが、あるとき心を持ってしまう。
生まれたての赤ん坊のような、心。持ってはいけない、心を。
見るもの聞くもの触れるもの、すべてが美しい。世界は彼女に優しい。最初のうちは。
そして彼女は、恋に落ちる。

都会に住む私たちは、だれもが孤独を抱え、
周りとうまく接点を結べないで生きている。
努力しても結べないのじゃない。結ぶことを放棄している。

 面倒くさい。
 ややこしいのは疲れる。
 自分の気持ちなんてだれもわからない。

だから、だれにも侵されない自分だけの城を造って、その中でひっそり生きている。
けれど、孤独は少しずつ、心を蝕んでいく。心は、だんだんと壊れていく。

空気人形は、たとえ心を持ったとしても、それだけでは完結しない。
彼女の空っぽのに体の中に、だれかが生命を吹き込んでくれなければ。
文字通り、順一が彼女の腹の空気穴から息を吹き込むシーンは、
そこらへんのセックスシーンよりずっと、エロチックだ。
心も体も満たされる。命を吹き込まれる。愛を吹き込まれる。
けれど、愛を知ることはすなわち、痛みを知ること。
順一を想いながら、彼の「特別」になれない空気人形が、
無邪気にも選んだ方法は、悲劇を生んでしまう。

空気人形は、人形でありながら、私たちを映す鏡だ。
思えば私たちの多くは、多かれ少なかれ心に空虚を抱えて生きている。
凡庸で、いくらでも替わりのいる自分は、空気人形と同じ代用品でしかない。
用を足さなくなったら、別の代用品と入れ替えればいいだけだ。

自分だけを必要としてくれる人が欲しいーーー

痛切に願いながら、ほかのだれかを「特別」に想うことのない人間。
作中読まれる吉野弘の「生命は」が言うように、人はひとりでは完結しないのだとしたら、
他者との関わりを避けて生きる孤独な命は決して完結することはなく、満たされないままなのか。
冷たい手のひらで、額を冷やしてくれるだけでもいいのに、それすらも、私たちは拒絶して生きているのか。

カゲロウは、成虫になると子孫を残すことしかしない。
エサも食べないから、口も退化してしまっている。

そう語った老人の話には、続きがある。
胃の腑がからっぽで空気しか入っていないカゲロウの腹には、
のど元まで隙間なく、卵がつまっているのだ。
切ないほどに光り輝く、小さな粒が、びっしりと。

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コメント

(聞いた話ですが)是枝裕和監督は以前からペ・ドゥナのファンだったそうで、この作品なら日本語が流ちょうでなくとも構わない(寧ろたどたどしい方が効果的)と、勇んでオファーしたそうです。

今月11日にメデタク三十路突入しましたが、まだまだ幼さを演技表現できる女優さんですね。私も好きな女優さんです。

投稿: 諸葛亮 | 2009/10/31 10:30

諸葛亮さん、そうなんだそうですね。
その後いろいろ読んでみたりして、知りました。
なんだかハマってしまって、原作コミックと、
それから『ユリイカ』の特集号も買ってしまいました。

感覚で演じるのではなく、理詰めて役を作っていく、
だから何度テイクを重ねても演技がブレない。

自身や自身の経験を投影して役を作っていないので、
演じた役と彼女自身は似ていない。

ということばが印象的でした。
ペドゥナを惚れ直してしまいました(笑
それから、また旧作を見直してみたくなりました。

投稿: 音樹 | 2009/11/03 12:34

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観たい映画が溜まっています。消化がはかどりません。先週はレンタルDVDを2本観ま [続きを読む]

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