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2010/01/27

母なる証明(6/100 '10)

ポンジュの監督の最新作は、本人がそのつもりだったか定かではないけれど、
かなり原点回帰に近いのじゃないか、という気がした。
系統的には、『殺人の追憶』にとても近い作品という印象。
とても、あの『グエムル』を撮った監督とは想像しにくいかんじ。

もっとも、本作のアイデアはやはり『殺人の追憶』あたりからあって、
ようやくそれが形になった、というのが監督のいい方だったと記憶している。
陰鬱で、外に対してひどく閉じた町の、他者に対してひどく閉じた母と息子。
全体をおおう色彩は、そのまま物語のやるせなさとイコールの関係。

田舎の街で、ひとりの女子高校生が殺される。
頭を殴打され、とある家の屋上にこれ見よがしに置き去りにされて。
現場近くで発見されたゴルフボールから、犯人とされたのはトジュン。
母親とふたり暮らしで、障害をもつ青年だった。

警察はまともな捜査をしていない、弁護士も頼りにならない、
息子はしてもいない罪で拘留され、有罪を言い渡されるだろう。

息子の無実を信じる母親は、ひとり、奔走する。真犯人を見つけようと。

ココから先、ネタバレになります。


「衝撃的なラスト」とあちこちで言われているようだけれど、
映像を見ないで文字だけで伝えられたら、それほど珍しい結末ではない。
どこかで、何かで、見たような気がする。映画だったか、小説だったか。
その「骨格」を、誰にもまねできない脚色で見せるのが、
ポンジュノの、ポンジュノたる所以なんだろうと思う。

役名もなく、たんなる「母」として登場し、その立場を象徴する母親は、
障害を持った息子トジュンを、まるで5歳の子どものように溺愛している。
母親と息子の関係は、母親と娘のそれとは明らかに異なるものであるけれど、
たとえトジュンに障害があるとはいえ、この母親の過保護ぶりは目に余る。
けれどその理由も、物語の後半に明らかにされる。

年取ってから生んだ息子を女手ひとつで育てることに疲れ果てた彼女は、
トジュンが5歳のときに無理心中を計ろうと、彼に農薬を飲ませていた。
トジュンの障害がそのせいなのか、それとも障害があったから無理心中を決意したのか、
それは映画では語られないけれど、とにかく彼女は、死ぬことに失敗してしまう。
それ以後、彼女はトジュンを守るためだけに生きている。
鶏をほぐして茶碗に乗せてやり、薬草を煎じてクスリを作って飲ませ、
バカにされたら倍にして返せと教え、夜は添い寝して寝ている。
それが、彼自身を窮地に追い込み、彼女自身をも破滅させるとも知らずに。

結局、トジュンは母親の教えに従っただけなのだ。
それに気づいたときの、母の狼狽。息子を守るためしたことが、
息子自身の手を汚すことになったと知ったときの母の絶望。
そうして、彼女は自らの手を汚すことになる。真実を隠蔽するために。

隠蔽された真実のためにトジュンの身代わりになったのは、別の、障害をもつ青年だった。
素人が簡単に見つけ出せるような証拠も見逃して、まともな捜査もしないまま
障害者を犯人として逮捕する田舎警察も如何なものかと思うが、
その青年に会いにいき、彼には両親がいないと聞いて号泣する母親の涙は、
絶望だったのか、それとも安堵だったのか。空恐ろしい瞬間だった。

でもここで、物語は終わらない。
釈放されて家に戻ってきたトジュンは、無邪気に言ってみせる。

「きっとアジョンを屋上に置いたのは、気づいてほしかったからだよ。
 アジョンが血を流しているよー、だれか病院につれてってよー、って」

それこそが、トジュンが苦労して彼女を屋上に引きずり上げた理由。
こんなことをトジュンがどこかで言ってしまえば、何もかもが水の泡。
トジュンが疑われ、あの青年が釈放され、・・・

不安に苛まれる母親に、さらなる追い打ちをかけるのは、
トジュンが見つけてきた母親の鍼灸用の針ケース。
これこそが、彼女が自らの手を汚した証拠となるもの。
いまや、引き金に指をかけているのはトジュンだと、母親は思い知る。
自分が命をかけて守ってきたものが、この不安定なトジュンの人差し指にかかっている。
トジュン自身の命運も、自分の命運も、すべて、どこで何を言うか、いつ気まぐれに、
そうとは意識せずに罪を告白してしまうかわからないトジュンにゆだねられている。
5歳のあのときのことを突然思い出し、自分に農薬を飲ませたと言って、
警察で大声で自分を責め立てたときのように。いつか。どこかで。

この映画の骨格がたとえほかの何かに似ていたとしても、
それ以降の、この母親の想いを描いたことで、この映画はほかと一線を画している。

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